RIOの日記

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『元彼の遺言状』(新川帆立著)の感想

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この週末、新川帆立さんの『元彼の遺言状』を読みました。

帯に大きく「2021年このミス大賞受賞作」と書かれていたのに、全く気付かず・・・

本屋に無数に並ぶ本の中で、真っ赤なカバーにパッと目を引かれたんです。

 

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「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」

奇妙な遺言状を残して、大手製薬会社の御曹司・森川栄治が亡くなった。学生時代に彼と三ヶ月だけ交際していた弁護士の剣持麗子は、犯人候補に名乗り出た栄治の友人の代理人として、森川家主催の「犯人選考会」に参加することとなった。数百億円とも言われる遺産の分け前を獲得すべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走するがー

アマゾン作品紹介ページより引用

 

 

エンタメ性が高くて読みやすく楽しめた半面、細かい部分でどうしても違和感を覚えて気になってしまうところもありました。

 

 

以下ネタバレが含まれます

 

 

映像化にぴったりなエンタメ性の高い作品

 

  • 個性の立つ登場人物
  • 巨額の遺産相続を巡る事件
  • 二転三転するストーリー

 

…と、まさに大衆向けで映像化にうってつけ。

 

来年あたり、二階堂ふみちゃんあたりが主演で映画が公開されそうな予感。

 

かたや、ミステリーとして読むと少し物足りないかも。

 

犯行自体には何の謎もありません。

本作の一番のミステリーはその動機にあるのかな、と思いますが、個人的にはあまり共感できず…

 

亡き妻の不倫を誰にも知られたくないからと、何人も殺そうとするのかな。

私自身、まだ理解するには社会経験というか、泥々したものを見ずにきちゃったせいかも。

 

 

 

主人公・剣持麗子のキャラクター

 

お金以外と自分以外に何の興味もないという女性弁護士が本作の主人公。

 

私は正直嫌いなタイプで、最後までポジティブには読めなかったけど、こういう考え方や生き方を否定するつもりはもちろんないです。

 

人の価値観なんて千差万別ですから。

 

ただ、麗子みたいな女性だったらこんなことするのかな?と思うような場面がいくつかあって、少し気になりました。

 

例えば冒頭のプロポーズシーン。

 

付き合っている彼氏から、レストランでディナーの最中、40万円そこそこの指輪でプロポーズされたことに激怒。

 

「私の価値はそれだけか、金がないなら借金するなり内臓売るなりしてこい」

とブチ切れ、彼氏を置き去りにして帰ってしまいます。

 

そんな女性が、そもそも研究職の会社員なんかと付き合うのだろうか?

日本有数の大手弁護士事務所の渉外弁護士であれば、高年収のコンサルや公認会計士、社長といった人たちと出会う機会は腐るほどあります。

 

作中では「知的で尊敬できると思ったから付き合った」なんて書いてあるけど、このプロポーズのシーンを見る限りとてもそうとは思えません。

 

逆に優秀な弁護士なら、一会社員が婚約指輪ごときに100万円も費やす方が、「常識的なお金の使い方出来ない人」と判断して、結婚生活に不安になるんじゃないかと思うんです。

 

お金以外に興味がないクールな女性という設定をもう少しつき詰めて描写していたほうが面白かっただろうなぁ、というのが少し残念に思いました。

 

ゲノムゼット社の株式譲渡契約書

 

栄治の奇妙な遺言状は、すべて栄治と拓未が保有するゲノムゼット社の株式の処理に困り、国庫に帰属させようという企みの元作られたものというのがオチでした。

 

成果を急ぐあまり、格安で売りに出されていたゲノムゼット社の株式取得を焦った拓未が、ろくにDD*1の内容を吟味しなかったところ、ゲノムゼット社は反社会的勢力にどっぷりの問題企業だった、ということ。

 

麗子がこれを見抜いたきっかけは、拓未がゲノムゼット社の株式を取得した時の契約書があまりにプレーンでテンプレートどおりだったから。違和感を覚え、紗英を通じてDD Reportを入手して判明した、という流れですが、企業法務をしている私にとっては、これもなんだか違和感が。

 

DD reportが存在し、そこに反社会的勢力との関わりについてもバッチリ記載されていたのに、なぜ何も対策が取られなかったのかな。

 

DD reportは通常弁護士が作ってくるものなので、拓未の弁護士は少なくとも気付いていたはず。いくらでも伝える機会はあったはずだし、そもそもそれすらもしないなら、わざわざ詳細が書かれたDD Reportなんか用意しないのでは。

 

DDって、時間もお金もそこそこかかるし・・・

 

それに"テンプレート通りのお手本どおりの株式譲渡契約書"ならなおさら、譲渡会社に関する表明保証条項も契約解除条項もちろんあるはずなので、あんな手の込んだ遺言状を作り上げることに労力を使うよりも、いくらでも取引を取消にできる方法はあったんじゃないかな、と思ってしまいます。

 

他にも、渉外弁護士の麗子がなぜか「刑事事件で馴染みがあったから」と、東京=長野間の高速道路でスピード検査している場所を具体的に知っていたりと、細かいけどなんか腑に落ちない展開が散見されました。 

 

ただ、アマゾンのレビューでは高評価が多く、平均点も3.9点*2と高いですし、読みやすくて楽しめる内容になっているのは間違いないと思います。

 

元彼の遺言状

元彼の遺言状

  • 作者:新川帆立
  • 発売日: 2021/01/08
  • メディア: Kindle版
 

 

 

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