コロナの第三波の真っただ中。
妊娠中ということもあり、仕事以外の時間は家にこもる日々です。
体調も落ち着いてきたし、外も寒いので、おうちでゆっくり読書する時間も増えました。
今回読了したのは、知念実希人さんの『崩れる脳を抱きしめて』。
表紙の夕焼けのような鮮やかなオレンジ色に目を奪われて手に取りました。
恋愛とサスペンスが融合した作品で、特に後半は一気に読み進めてしまうほど夢中になりました。
あらすじ
広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の碓氷は、脳腫瘍を患う女性ユカリと出会う。
外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まれる碓氷。
心に傷をもつふたりは次第に心を通わせていく―。
実習を終え広島に帰った碓氷に、ユカリの死の知らせが届く。
彼女は死んだのか?
ユカリの足跡を追い、碓氷は横浜を彷徨う。
驚愕し、感動する、恋愛ミステリー!
第8回広島本大賞、第4回沖縄書店大賞、第1回一気読み大賞、3冠!
アマゾンの作品紹介ページより引用
以下、ネタバレが含まれるのでご注意ください。
誰しも明日命を落としかねない爆弾を抱えている
主人公の研修医・碓氷が恋心を抱くユカリさんは、脳腫瘍を患っています。
そのことを彼女は、「頭に爆弾を抱えている」と表現していました。
それに対し碓氷は、「人は誰しも爆弾を抱えている」と答えます。
ユカリさんは病院での診察危機によって脳に存在する腫瘍を目で見ることで、死を招く爆弾を目の当たりにして人生の終わりを意識しながら生きています。
一方で、私を含め平均的で健康な人間は、当然のように今日と同じように明日が来て、来年が来て、おじいちゃんおばあちゃんになって・・・と思い込んでいます。
でも、本当にそうでしょうか?
残念ながら、誰しもが明日を当然迎えられるわけではないですよね。
車に轢かれるかもしれないし、
頭上から何かが落ちてくるかもしれないし、
変な人にいきなり襲われて刺されるかもしれない。。。
人生、何が起こるか分からないものです。
正直、思わぬ形で人生が終わってしまったら悔いが無いとは言えないと思いますが、それでも1つでも多くやりたいこと・やるべきことを達成して、充実した日々を過ごしたいと思います。
碓氷と父
本作品は、恋愛小説とミステリーの2つの側面を持っています。
作中にはナゾや伏線が多く出てきて、それらが特に後半、一気に回収されるところが読者を夢中にさせる要因の1つだと思います。
私はその中でも、碓氷の父親の真相が特に印象に残りました。
碓氷は、幼少期に借金を背負った父親が若い女と貯金を持ち逃げしたという事実にずっと心をとらわれ、父親を憎み、父親の行動のせいで経済的に苦労した経験からお金に執着するようになります。
私自身も幼いうちに両親が離婚し、父親は1円も養育費を払わず早々に再婚相手と子供を作り、5歳で別れたあと何十年も一度も会っていないこともあり、父親という存在にまったくポジティブな印象がありません。。。
碓氷の場合は、ユカリさんの力添えもあり父親の失踪の真相や家族に対する本当の気持ちに気付け、ずっととらわれていた負の感情から解放されます。
私の場合はそのようなハッピーエンドは期待できないし期待もしていないけれど、今は新しい家庭を持つ身としては、家族に対する愛情そのものはとても共感するし、碓氷とお母さん・妹さんの3人が真相にたどり着けたことに救いを感じました。
感想
2018年に本屋大賞にノミネートされたということもあり、文章自体も読みやすく、またミステリー要素も多いため、ぐんぐん読み進めます。
著者が医師ということもあり、医療のシーンの臨場感はハンパなかったです。
まるで医療系のドラマを見ているように、リアルに頭の中で映像が思い浮かぶほどでした。
主人公の碓氷とヒロインのユカリさんが、作品を通してそれぞれ一人の人として強くなっていく様子もよかったし、2人の相手に対する心情も初々しくてむずがゆくて、胸が温かくなります。
ただ一つイマイチな点を挙げると・・・黒幕の箕輪。
最後のシーンがね・・・ヤクザっぽいのを従えている設定といい、それまでの話の流れを考えるとちょっと現実離れしているというか、やけにその部分だけフィクション感を強く感じてしまいました。
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流浪の月
熱源