観るのに覚悟が必要。
だけど観る価値はあると断言できる、そんな素晴らしい作品でした。
それが本日ご紹介したいNetflixオリジナル映画『私というパズル』。
主演のヴァネッサ・カービーは、2021年アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされています。
(c) 公式ウェブサイトより
<こんな人にオススメ>
- 俳優陣の演技に魅せられたい。
- 人の繊細で複雑な感情の違いやその移り変わりを感じたい。
- 静かで考えさせられる作品を見たい。
- アカデミー賞ノミネート作品をチェックしたい。
『私というパズル』 #Netflix
— Rio (@nami11star1) 2021年1月24日
冒頭の長回しの出産シーンは、月並みだけどすごいの一言。俳優陣だけでなく制作スタッフも一体となって作り上げたのがよく分かります。
色々な経験を経て、最後に主人公が法廷で語った言葉が特に心に残りました。静かで重いけど、強さや希望も感じる作品です。 pic.twitter.com/7QAubnNMWM
あらすじ
苦しい自宅出産の先に待っていたのは、予想もしなかった大きな悲しみ。
失意の中、パートナーや家族にも心を閉ざす女性は、やり場のない感情の飲み込まれていく。
Netflix作品ページより引用
出産とその悲しい結末、そこから女性とそのパートナーや家族がどう変化してそれぞれ立ち直っていくのかを描くヒューマンドラマです。
出産と死を扱う映画作品なので、女性、特に妊婦の方は暗い気持ちになるかもしれません。
私自身は、妊娠中にこの作品を見ました。
もちろんショックな箇所もありましたが色々考えさせられたし、それも含めて自分の家族にも起こりうる現実だし、見てよかったと心から思っています。
冒頭の出産シーンがかなりリアルでインパクトありますが、その後は静かにストーリーが進みます。主人公・マーサも表情豊かというわけではないのですが、表面上はあまり動きがない中で、内面がどのように動き、変化していくのかを自分なりに考え、感じながら鑑賞しました。
基本情報
- 原題:Pieces of a Woman
- 上映時間:126分
- 監督:コーネル・ムンドルッツォ
- ジャンル:ヒューマンドラマ
以下ネタバレが含まれますのでご注意ください
辛い出来事に私はどう向き合うのか、第三者としてどう当事者と関わるのか
この作品は、
- 出産直後に娘を亡くした主人公・マーサ
- マーサのパートナー、家族
それぞれの立場でどう赤ちゃんの死に向き合い、マーサと関わるのかというのが私自身一番考えさせられたポイントでした。
自宅出産*1を予定していたものの、担当の助産師さんの都合が合わず急遽代わりの助産師・エヴァが出産をサポートすることに。
慎重に心拍を確認したり適切な処置のもとで無事出産したものの、数分で赤ちゃんの容体が急変。
救急車を呼ぶも手遅れで、赤ちゃんを亡くしてしまいます。
10ヶ月以上も自分のお腹の中で育み、一度は元気に産まれた自分の娘をたった数分で失ってしまったマーサたち家族の悲しみは、想像を超えるものでしょう。
マーサはパートナーのショーンの反対を無視して、娘を検体として提供することを決めます。
「娘の死を無駄にしたくない、研究に役立てて欲しい」というマーサの気持ち
「娘を研究対象にしたくない、手元で大事に弔ってあげたい」というショーンの気持ち
どちらも分かります。
マーサもショーンもまだ立ち直れていない中で、相手の意見を尊重するとか冷静に話し合うとか、そんなうわっつらなことを言ってもむなしいだけ・・・そんなやるせない気持ちでこのシーンを見ていました。
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マーサの母・エリザベスはお産の場に立ち会ったわけでもないのに、「赤ちゃんの死の責任を助産師・エヴァに問うべきだ」と強くマーサに言い聞かせ、半ば強引にエヴァを訴えます。
エリザベスはエリザベスなりに孫娘を失ったやるせなさを抱え、「娘たちは悪くない、助産師がきちんと対処しなかったせいだ」と思い込んでエヴァに責任を取らせたかったのかな。
誰のせいでもない、原因不明の赤ちゃんの突然死の責任を追及する裁判・・・これもまた悲劇が招いた新たな悲劇ともいえる出来事でした。
(c) 公式ウェブサイトより
マーサ自身もどこかで、娘の死の原因を何かに見出すことで気持ちの区切りを付けたかったのかもしれません。ですが最後には法廷に立ち、「エヴァには何の責任もない、出産を適切にサポートしてくれた」と自ら証言します。
それがもちろん事実ではあるものの、事実を事実として受け止め理解して人前ではっきりと口に出すことがどれだけ大変なのか。
でもそれが悲劇から立ち直るための第一歩なのかもしれません。
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妊娠している時に本作を見たこともあり、マーサの視点で考えることが多かったですが、それと同じくらい自分自身が「周囲の人」だったときにどう振る舞うのか、考えさせられました。
特に印象に残っているのは、職場復帰したマーサの同僚のリアクション。
どんな言葉をかけるのが正解なのか、どんな風に受け入れたら良いのか、本作を見終わった後の今の私にも分かりません。
圧巻は、冒頭の長回しでの出産シーン
出産シーンは映画やドラマでこれまでも何度か見てきました。
ただ、本作ほどリアルで緊迫したものを見たことはありません。
(c) 公式ウェブサイトより
お産の段階に合わせてリビングからシャワー室、ベッドルームにマーサ・ショーン・助産師が移動しながらお産をするというシーンを、約30分間長回しで表現しています。
俳優陣の表現力もさることながら、緻密に計算されたカメラアングルやタイミングから寸分も違うことなく演技をこなす技術力。
もちろん私たちが見るのは俳優たちの演技ですが、その影にあるプロフェッショナルなスタッフ・製作側の準備にも脱帽します。
(c) 公式ウェブサイトより
正直、この長回しシーンは見ててかなり疲れるし楽しいものでもないしハラハラするし・・・でも、「すごいものを見た」と圧倒されます。
リアルで圧倒的な出産シーンがあるからこそ、生命誕生の奇跡・産まれた時の幸せが表現され、その直後に赤ちゃんを亡くしてしまうことの絶望感・辛さ・やるせなさへと繋がっていく、まさにカギとなる場面だったと思います。
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そして、観ている人に残酷な事実(出産が100%無事にいくわけではない)を突きつけます。出産の素晴らしい面もリスクとなる面も、再認識させられます。
お医者さんや助産師さんは日々大きなプレッシャーと責任感、緊張感のもとでお産を一つ一つ対処してくれているんだな、と感謝とともに尊敬します。
日本の周産期医療は世界的にみてもトップクラスの安全性を誇っている一方で、産婦人科の訴訟リスクは比較的高く、担い手不足が問題になっています。
産婦人科医師の不足する現状とその背景―世界トップクラスの安全性でも訴訟が多い? | 医師転職研究所
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他のアカデミー賞ノミネート作品も素晴らしい作品ばかりです。
『ソウルフル・ワールド』
『ウルフウォーカー』
『マ・レイニーのブラックボトム』
*1:昔は一般的だった自宅出産ですが、現代の日本ではかなり少ないようです。古いデータですが、厚生労働省のウェブサイトを見ると平成15年で0.2%(1,000人に2人)とのこと。