Amazonのプライムビデオで映画『サウンド・オブ・メタル』を鑑賞しました。
この作品も、2021年のアカデミー賞複数部門にノミネートされています*1。
(c) 公式ウェブサイトより
映画のタイトル『サウンド・オブ・メタル』の"メタル"は、
- ルーベンが生業とするメタル音楽
- 人工内耳を通じて聴こえる金属音で金属を意味するメタル
にかかっています。
切ないストーリとその中に感じる前向きさ、メッセージ性。
決して気軽に見ることのできるタイプの作品ではないですが、観賞後に「見て良かった」と思える作品です。
『サウンド・オブ・メタル』
— Rio (@nami11star1) 2021年4月11日
ルーベンの体験を、映画の音響効果で疑似体験しているようですごくリアルだった。メタルバンドのド派手音楽から幕を開けて、静かに終わっていくラストがとても印象的だったし、聴覚障害に対する考え方やコミュニティなどを初めて知り、考えさせられることが多かった。 pic.twitter.com/h4nYsoc5Wd
✔︎ 2021年のアカデミー賞ノミネート作品をチェックしたい。
✔︎ 大きな壁に当たっている、自分自身を見失いつつある人。
✔︎ 音響にこだわった作品を見たい。
あらすじ、基本情報
メタルドラマーのルーベンは、聴力を失い始める。医師に今後も悪化すると言われ、ミュージシャンとしての自分も人生も終わりだと考える。
恋人のルーは元ドラッグ依存症のルーベンをろう者のコミュニティーに参加させ、再びドラッグに走ることを防ぎ、新しい人生に適応できることを願う。
ルーベンはろう者のコミュニティーで歓迎され、ありのままの自分を受け入れるが、新しい自分とこれまで歩んできた人生とのどちらかを選ぶのか葛藤する。
<基本情報>
- 原題:Sound of Metal
- 上映時間:130分
- ジャンル:ドラマ、音楽
- 監督:ダリウス・マーダー
以下ネタバレが含まれますのでご注意ください
リアルな音響効果。聴覚を失っていく主人公の体験を擬似体験。
この作品の特徴の1つとして、リアルな音響効果を挙げることができます。
ルーベンがどう聴こえているのかを音響効果で再現することで、鑑賞している私たちも同じような体験をしているような感覚に。
(c) 公式ウェブサイトより
- まるで耳の中に水が溜まってしまったようなこもった聞こえ方。
- 人工内耳を付けて聴く、壊れたラジオを通じて聴くような人工的な音。
正常に聴こえる人生を30年以上過ごしてきた私にとっては、やはり聴力を失うことは少し怖い・・・と感じてしまいました。
ド派手なメタルバンドの迫力満点の演奏で幕を開けた本作は、音の全くない静寂に包まれて終わっていく演出も印象的。そこからも、「音」「聴こえ方」というのが製作側のこだわったポイントの1つだったことが伺えます。
人工内耳とは?
聴力を失ったルーベンが頼ったのは、人工内耳という手法でした。
観賞後に少し調べてみたところ、難聴の治療方法としては一般的な方法で、近年日本でも施術例は増えているとのこと。
2017年には、人口10万人あたり約9人がこの治療を受けたという統計もありました。
これによって自らの聴力が補強されるわけではなく、周囲の音をデジタル信号として脳に届けることで音として認識する、という仕組みのようです。
ルーベンが人工内耳を装着後、慣れるのに苦労していたのもそのせいで、地道なリハビリが重要だとされています。
参考▶︎ 人工内耳システム
時間を巻き戻したいという願い
聴力を失ってからのルーベンの意志は、
- 聴力を"取り戻す"
- 今までのルーとの生活に"戻る"
と、時間軸を巻き戻して今までの自分に戻ることを強く願い、そのために大事なものを売りお金を作って、高額な人工内耳の手術まで受けます。
きっとそれは普通のことで、多くの人がルーベンと同じ状況になれば、同じことを願って行動するでしょうし、きっと私も同じだろうなぁ、と見ていて感じました。
音楽を生業にしてきたルーベンにとっては、なおさらでしょう。
ただ、ルーベンがろう者のコミュニティーに滞在した短い期間で、ルーベンが戻りたがっていた昔の生活(=ルーとの生活)は大きく変化しています。
(c) 公式ウェブサイトより
ルーは不仲だった父と関係が改善。
今ではニューヨークの豪邸で何不自由なく生活しています。
そんなルーの姿を見たルーベンは、ルーがそんな父と離れて今まで通り2人でトレーラーでの生活に戻ることが良いことなのか、迷いが生じます。
また手術を受けたルーベンは、聴力が回復することを期待していました。
しかし前述の通り、人工内耳はあくまで音をデジタル信号で脳に伝えるツールであり、根気強いリハビリが欠かせないもので、一朝一夕で聴力が元通りになるわけではありません。
手術の前に担当医から説明があったんだとは思いますが・・・ルーベンは手術をしたという事実とは裏腹に、聴こえてくる音が不自然で、そのギャップになかなか慣れることができず苦労します。
難聴の捉え方
難聴はハンデではなく、治すものではない。
これは、ルーベンが参加したろう者のコミュニティの責任者、ジョーの言葉です。
このセリフを聞いて、昔本で読んだヘレン・ケラーの「耳が聴こえないことは、不便だが不幸ではない」という言葉をふと思い出しました。
人工内耳の手術を受けたこと、耳が治るまでしばらく住まわせて欲しいことを告げたルーベンにジョーは上記のように話し、「手術を受けることはコミュニティの理念と合わない。異なる思想の者を置くと必ず争いになるから、お願いを受けることはできない」と伝えます。
ラストシーンでそっと人工内耳を外したルーベンの姿を見て、ルーベンはこのジョーの言葉を受け入れたのかな、と思いました。
確かに聴力を失うことは辛いし、今までの幸せだった生活が急に変わってしまってさみしい気持ちもあるけれど、ルーベンにとって居場所がないわけではない。
ジョーがまとめるコミュニティーでルーベンを待っていてくれる人がたくさんいる。
(c) 公式ウェブサイトより
人生、どんなに辛いことがあっても必ず道があるというメッセージを感じました。
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*1:作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞、音響賞、編集賞