Netflixオリジナル映画『ザ・ホワイトタイガー』を観ました。
(c) 公式ウェブサイトより
主人公がインドを訪れた中国首相に宛てた、自身の半生を綴った手紙を読む形で物語が進んでいきます。
一言でいうと
- 根強いカースト制度と混沌としたインド社会
- 奴隷層の理不尽な現実と、壮絶な下克上
が表現された作品で、テーマとしてはヘビー。
ただインドが舞台ということもあり、作品全体の雰囲気は活気があって世界観に入り込みやすいと思います。
『ザ・ホワイトタイガー』
— Rio (@nami11star1) 2021年4月4日
インドの強烈なカースト社会でのし上がろうとする青年のストーリー。
日本で生まれ育った感覚しか持ち合わせてない私が誰が悪いとか言えないけど…後味スッキリの大逆転という感じではなかったかな、犠牲が大きすぎて。色々考えさせられるしシリアス過ぎず、面白かった! pic.twitter.com/isWQIRCoi4
なお映画のタイトルでもあるホワイトタイガーとは、インドに生息するベンガルトラの白変種のことです。かつてはインドの北部や中東部に生息していたものの、現在では飼育下でのみ目にすることができる、かなり希少な品種の動物で、国内では30頭、世界でも250頭ほどしかいないそうです。
参考▶︎動物詳細 ホワイトタイガー | 動物図鑑 | 動物園 | 東武動物公園
(c) 公式ウェブサイトより
✔︎ インドの文化や歴史、雰囲気が好き。
✔︎ 逆転劇のストーリーが好き。
あらすじ、基本情報
この貧困から何としても抜け出したい。そんな野心を胸に裕福な一家の運転手になった男は、持ち前のずる賢さで成功を目指すが・・・。ベストセラー小説の映画化。
Netflix作品ページより引用
<基本情報>
- 原題:The White Tiger
- 上映時間:131分
- 監督:ラミン・バーラニ
- ジャンル:ドラマ
以下ネタバレが含まれますのでご注意ください
登場人物
バーラム
本作の主人公。
貧しい家に生まれたものの、幼少期から頭が良く野心的。
学校には途中から通うことができなかったが、青年になり裕福な一家のお抱え運転手に就職する。
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アショク
バーラムが使える資産家の息子。
アメリカに留学経験があり、心優しくビジネスのセンスもあるが、兄や父に強く反論することのできない弱さも。
ピンキー
アショクの妻。
アショクと対照的に、自分のおかしいと思ったことは強く主張する強さと、他人を思いやる優しい心を持つ。
アメリカで育ったため、貧困層出身のバーラムに対しても優しく接する。
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マングース
アショクの兄。
思いやりに欠け傲慢な性格だが、物事を強引にでも決めて推し進めるパワフルさを持つ。
インドにおけるカースト制度
日本においても"スクールカースト"という言葉が普通に使われているため、言葉の意味として「カースト=ヒエラルキー(階層)」であると理解している人は多いでしょう。
ただ、日本で生まれ育ち生活している私にとって、映画の中で見たその実態はあまりに想像を超えていました。
現在もインドではカースト制度は禁止されていません。
カースト制度に基づく差別を禁止しているのみとのこと。
もともとカーストは職業に付随しその内容は細分化され、その数は数千にも及ぶとされています。
バーラムは貧しい家に生まれたということもあり、学校にも満足に通えませんでした。
そのため普通の社会で最低限身につけているべき所作や習慣も分からないまま、アショクの運転手として大都市・デリーに向かいます。
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そこで初めて歯磨きの習慣や人前で股間を触らない、といった最低限のマナーを教えてもらいます。
逆にいうと、貧しい家の子供たちは、社会で生きていくために必要なマナーや最低限の知識を教わることなく大人になってしまうので、ますます貧しさから抜け出すことが難しくなってしまう、ということだね。
インド社会に根強く残るカースト制度ですが、これを打破するキーとなるのがIT職業だそうで注目されているそうです。
というのも、IT職業は従来のカースト制度には存在しない職業。
本人が必死で勉強してスキル・知識を身につければ、下層のカーストで貧しい生活を送っていた人がグローバルIT大企業に就職して高額な給料を手に入れられる。
もちろんインドで起業して成功しているIT企業もたくさんありますよね。私も以前日本のIT企業に勤めていましたが、インド出身のITエンジニア採用枠というのがありました。
参考▶︎インドのカースト社会をぶち壊す「IT産業」という一筋の光
後味の悪さを残した逆転劇・・・
アショクの専任運転手として生活を共にするバーラムは、アショクの思い描くビジネスプランや今インドでビジネスが盛んな街の名前など、多くのことを学び、勝手に夢を膨らませます。
一方で、いくら裕福な家庭に使える者とはいえ自分の給料は微々たるもの。
アショク一家が、ボストンバッグから溢れんばかりの札束を連日のように政治家に賄賂として渡すのを目の当たりにして、自らの処遇への不満を募らせていきます。
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そこである日バーラムは、政治家との面会の途中にアショクを殺害し、賄賂として用意していた多額の現金を奪い逃走。その現金を元手に警察を買収し、別の街でビジネスを立ち上げ見事成功させてこのストーリーは終わります。
(c) 公式ウェブサイトより
この作品を見終わって、単に「下克上」とか「逆転劇」とかで表すにはあまりにも後味が悪いな、と感じたのが正直なところ。
もちろんバーラムの境遇には同情しかしないし、不満を募らせるのも理解はするんです。
- 学ぶ意欲はあるのに、貧しさゆえに学校に通えない
- ピンキーが起こした人身事故を「自分の責任だ」という供述調書にサインさせられる(ただ被害者が路上生活者の子供だったため事件化される可能性は低かった)
- 対等な人間として扱ってもらえない
それでも「アショクって殺される必要あった?」 「バーラムの苦労や辛さってアショクのせい?」って聞かれると・・・自分はそう思えなかったんです。
何が悪かったのかというと、あまり良い言い方ではないけど、やっぱりインド社会のせいだったんじゃないかなと思っちゃうんです。
- 運転手に限らず、インドでは貧富の差がかなり激しい現実があって、アショクが意地悪して給料を渡さなかったわけではなく、あくまでその職業の標準的な給料が低すぎただけ。
- 日頃の素行が悪化してきたバーラムを見かねたマングースの助言に従って、代わりのドライバーを探していたのも、 当然の心境。
「奴隷は奴隷から抜け出せない。なぜなら主人に逆らった途端、自分自身だけでなく家族皆殺しにされてしまうから、そんな気が起きることすらない」
と映画の中では語られていましたが、バーラムは地元にいる20人弱の家族のことを犠牲にしてまでも、アショクを殺して金を奪うことを決めます。
この視点で見た時、バーラムは悪なのか?
またこれも「違う」と個人的には思うんです・・・
バーラムにとっては、このタイミングで金を奪って逃げなければ一生奴隷のような仕事から抜け出せなかった、やりたいことへ挑戦するという当たり前のこともできなかった。
そう考えると、バーラムの一連の行為を「悪だ」と簡単に片付けることは難しいな、と。
ところで、「こんな過激で信じがたいことが現在社会において本当に起きてるの?」と不思議に思い少し調べてみましたが、インドでは階層社会に起因した殺人事件が今でも起きているそうです。
私が『ザ・ホワイトタイガー』を見て後味が悪いなと感じたのも、単にバーラムとアショクという2人の人間の関係性だけでなく、インドがいまだに抱える社会問題だったり混乱だったりといった外的要因が強く影響していて、一体何を責めるべきなのか、結果的に成功を収めたバーラムについて嬉しく思うべきなのか、分からなくなってしまったから。
社会の複雑さを感じさせ、インド社会への興味を持たせてくれるすごい作品でした。今までいかに自分がインドについて何も分かっていなかったのか、痛感したのと同時に、その歴史や文化にとても興味を持ちました。旅行に行くのは少し怖いけど・・・(笑)
最後に・・・インドと中国は世界をとるのか?
冒頭でご紹介したとおり、この作品はバーラムがインドを訪れる中国首相に宛てた手紙を読み進める形で進行します。
バーラムは「これからは黄色の肌の人種(アジア系)と茶色の肌の人種(インド人)が世界をリードしていくでしょう」といった趣旨でその手紙を結びます。
中国・インドといった新興国が特に経済面で注目を集めて久しいですが、今後超大国のアメリカや欧州諸国を抜くことはあるのでしょうか。
特にここ最近は、
- コロナの影響
- 地政学的緊張
もあって今までのよりもいっそう先行きが不透明になりつつありますが、今後この2ヵ国の存在感が増す可能性が非常に高いでしょう。
参考▶︎中国、「2028年までにアメリカ追い抜き」世界最大の経済大国に=英シンクタンク - BBCニュース
今のうちに資産の数%でも、この2ヵ国に投資するのも一案かも・・・💰✨
▼原作本はAmazonでも高評価▼
The White Tiger: WINNER OF THE MAN BOOKER PRIZE 2008 (English Edition)
- 作者:Adiga, Aravind
- 発売日: 2008/10/01
- メディア: Kindle版
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